家族に給与を支払って節税しよう!

家族に給与を支払うと節税になる仕組みを解説

配偶者や子供に給与を支払うことで節税になる仕組みの肝は「所得の分散効果」と「基礎控除・給与所得控除」を活用する点にあります。

所得の分散効果とは?

法人が支払う給与は、受け取る個人に対し所得税が課税されます。
この所得税は、累進課税により、給与が高くなればなるほど税率も上がる仕組みです。
従って、同じ給与支払額でも社長1人にのみ支給するのではなく、配偶者や子供に分散して支払うことで、各自が低い税率で所得税を計算できることになります。

基礎控除・給与所得控除の活用とは?

個人の税金計算上、一人ひとりに基礎控除(48万円)と給与所得控除(55万円~195万円)が適用されます。
これらの控除は、収入がなければ何も恩恵を受けられないものになりますので、給与を分散して支払うことで控除枠を余すことなく活用することができます。
また、2人でなく3人・4人と分散させて支給した方が、活用できる控除額が増えるため、節税になります。

【参考】所得税率表 _ 出所:国税庁

課税される所得金額税率控除額
1,000円 から 1,949,000円まで5%0円
1,950,000円 から 3,299,000円まで10%97,500円
3,300,000円 から 6,949,000円まで20%427,500円
6,950,000円 から 8,999,000円まで23%636,000円
9,000,000円 から 17,999,000円まで33%1,536,000円
18,000,000円 から 39,999,000円まで40%2,796,000円
40,000,000円 以上45%4,796,000円

個人事業主の場合は制約あり・・・

本記事で紹介している節税策は、個人事業主であっても通用します。ただし、個人事業主が親族に給与を支払う場合は以下の要件があり、少々使い勝手に劣ります

親族が事業に専念している場合のみ経費計上可能

つまり、配偶者や子供が別に仕事をしていて、「少しだけ個人事業の方を手伝ってもらっている」といった場合は、”専念”しているわけではありませんので、給与が経費として計上できません

いまは共働きが当たり前で、「配偶者の一方は自営業、もう一方は企業勤め」といったケースも非常に多いので、現代の働き方にはマッチしない気がしますが、ルールではこうなっています。

税務署へ所定の届出が必要

この届出の提出を失念してしまい、青色専従者給与の恩恵を取り逃してしまうケースも散見されます。 届出の提出期限は、原則として「青色事業専従者給与額を必要経費に算入しようとする年の3月15日まで」となっており、意外にタイトですので注意してください。

マイクロ法人がおすすめな理由

一方、法人から家族へ給与を支払う場合、個人事業主のような制約はありません

つまり、家族は法人の事業に専念していなくてもOKですので、「他に本業があるけれども、空いた時間で法人の事業を手伝っている」といった場合にでも給与を支払うこともOKです。

また、個人事業主と違って事前に届出を提出する必要もありません。

こういったメリットを活用し「親族に給与を支払う」ために個人事業主を廃業し、マイクロ法人を設立するケースも見られます。

具体例

事例を用いて、この節税策による手取り額の増加影響を試算してみます。

【設例】法人から給与を1500万円を支払う

  • 事例A:社長にだけ、1500万円の給与を支払う 
  • 事例B:社長に750万円、配偶者に750万円の給与をそれぞれ支払う
※数値は年額事例A事例B
(1人あたりの計算)
給与支払額15,000,000円7,500,000円
健康保険料▲872,484円▲425,940円
厚生年金▲713,700円▲680,760円
所得税▲2,117,000円▲388,400円
住民税▲1,101,200円▲411,500円
手取り10,195,616円5,593,400円
※社会保険は東京都の金額。配偶者控除は考慮外。扶養控除も考慮していません。

事例Bは1人あたりの数値ですので、世帯での手取りは2倍になります。
つまり、手取り額は5,593,400円 x 2人分 = 11,186,800円となります。

法人から年間1500万円の給与支払うという点は全く同じであるのに、夫婦で分散させて支払った方が、手取りが約100万円も増えることが分かります。

注意点

本記事で紹介している節税策についても、注意点がありますのでご紹介します。

勤務実態を備える必要あり

実際に勤務実態がない家族へ給与を支払うことはできません。

税務調査時によく問われる論点ですので、勤務表を用意するなど、勤務実態を対外的に説明できるように準備をしておくことをお勧めします。

ただし、社長と同等に営業や生産活動をしていることまでは求められていないので、例えば「親族に各種事務作業を手伝ってもらう」などでもOKです。

高額な給与はNG

親族への給与は「不相応に高額」なものは損金算入できないというルールがあります。
この点、何円までOKといった具体的な法律上の決まりはありませんので悩ましいところです。
「不相応に高額か否かの」を判断される基準としては、親族へ任せている業務内容が、世間一般的な水準と比較して明らかに高額であれば、否認されるリスクが高くなると考えてもらえばよいかと思います。

みなし役員リスクあり

役員として登記していなくても、以下の要件に合致すれば税金計算上は役員としてみなされます。

  1. 法人の使用人(職制上使用人としての地位のみを有する者に限ります。)以外の者で、その法人の経営に従事しているもの
  2. 同族会社の使用人(職制上使用人としての地位のみを有する者に限ります。)のうち、次に掲げるすべての要件を満たす者で、その会社の経営に従事しているもの
    • その会社の株主グループをその所有割合の大きいものから順に並べた場合に、その使用人が所有割合50パーセントを超える第一順位の株主グループに属しているか、または第一順位と第二順位の株主グループの所有割合を合計したときに初めて50パーセントを超える場合のこれらの株主グループに属しているか、あるいは第一順位から第三順位までの株主グループの所有割合を合計したときに初めて50パーセントを超える場合のこれらの株主グループに属していること。
    • その使用人の属する株主グループの所有割合が10パーセントを超えていること。
    • その使用人(その配偶者およびこれらの者の所有割合が50パーセントを超える場合における他の会社を含みます。)の所有割合が5パーセントを超えていること。

「2.」は非常にややこしいですが、要は、社長の親族で名目上は役員でなくても経営に従事していれば役員とみなされると考えて頂ければわかりやすいかと思います。

給与を支払う親族が上記に該当する場合、役員としてみなされまますので、その給与は「定期同額給与」である必要があります。

例えば、「3月の給与は10万円、4月の給与は20万円」といった場合「定期同額」ではない部分(この場合4月給与のうち10万円)は経費として計上できないことになります。