マイクロ法人のメリット・デメリットを網羅的に
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ひとり1社、法人を持つ時代が到来?
マイクロ法人が増加中
総務省統計局のデータによると、新規の法人設立数は増加の一途をたどっています。
2023年の法人設立数は、15年前の2008年より約1.5倍も多くなっており、マイクロ法人(ひとり会社)の増加もこの趨勢に大きく寄与しているものと推察しています。
この背景は、「スモールビジネスが意外に儲かる」ことに気づいた個人事業主が、マイクロ法人(ひとり会社)に認められる幅広い節税策を活用し、より効率的に資産蓄積を目指すケースが増えてきたことにある考えられます。
実際に、筆者の肌感覚でもマイクロ法人の設立は非常に増えてきており、近い将来、表題のように1人1社の法人を持つ時代が来てもおかしくないと考えています。
【年別:法人の新規設立数(単位:社)※2008年~2023年】
2008年 | 2013年 | 2018年 | 2023年 | 増加率 (2023/2008) |
92,097 | 96,659 | 116,208 | 141,425 | +153.6% |
マイクロ法人には注意点あり
マイクロ法人は、上手に活用すれば効果が高い節税策が数多く認められている一方、これらの節税策は、安易に適用すると否認リスクがあったり、かえって税額が増えることになるものが多く、注意が必要です。
次項において、その節税策を列挙していますが、どれが適用できるかは個々の会社やオーナー経営者の状況により様々です。自社に使えそうなもの、あるいは活用が難しいもの(適用しない方が良いもの)の取捨選択が必要です。
なお、まずは概要をつかんで頂く趣旨から、以下ではポイントのみ記載しています。順次、別記事で詳細な活用方法/注意点をまとめていきたいと思います。
マイクロ法人のメリット一覧
借り上げ社宅の活用
社長が住む自宅家賃の5~9割程度を法人経費として計上できます。副次的な効果として社長の所得・住民税や社会保険料も削減させる効果が生まれます。
出張日当(手当)の支給
一定の条件を満たして役職員が出張した場合、給料とは別に手当てを支給することができるものです。この出張手当は、所得税・住民税が非課税なうえ、社会保険料もかからないため、非常に有利です。
退職金支給
退職金は非常に強力な税制優遇が認められています。退職したときにしか出せない、支給額の計算が複雑(リスクが高い)等々、注意点もありますが、一定の条件を満たせば数千万円クラスの退職金を、全くの無税で支給することもできます。
社会保険に加入(役員報酬を自分で決定できる)
社会保険料は役員報酬の額面に応じて決定されますが、役員報酬はマイクロ法人のオーナーの判断で決めることができます。従って、例えば役員報酬を低めに設定した場合、これに呼応して社会保険料の額も低くなります。
税率が低い
個人事業主は「稼ぎが多くなるほど税率が高くなる」仕組みになっています。一方、法人にはそのような発想はありません。従って、一定の稼ぎがある個人事業主が法人成りすれば、稼ぎは同じでも、より低い税率で税金計算をすることがきます。
個人事業主と兼業(いわゆる二刀流)
個人事業主と法人で2つの事業を行う場合、個人事業主に認められる「青色申告特別控除(65万円)」と法人からの役員報酬に対して「給与所得控除(55万円~195万円)」の2つの控除が受けられます。
営業面のメリット
(税金面のメリットではありませんが)個人事業主よりも法人の方が、新規取引先の獲得に有利というのが通説です。これは、法人の方が外形的に取引先からの信用が得やすく、特に大手企業の場合は「個人事業主とは取引NG」といったポリシーがあるケースもあることが原因です。
経費の範囲が広い
法人の方が経費として認められる範囲が広いため、マイクロ法人の方が効率的に所得圧縮できる可能性があります。
消費税の免税
個人事業主で毎年1,000万円以上の売上がある場合、消費税の免税(またはインボイスの2割特例)の適用が受けられません。一方、新たに法人を設立(法人成り)すると、原則として設立後2年間は免税(または2割特例の適用)が受けられます。
親族間の所得分散
個人事業主は、他に仕事をしている親族には給料を払うことができません。マイクロ法人にはそのようなルールがないため、他に仕事をしている親族に対しても、自社の業務をした場合には給料を払うことができ、所得分散の効果が得られます。
マイクロ法人のデメリット
赤字でも税金が発生
個人事業主の場合、赤字であれば税金は0円ですが、法人の場合は赤字であっても最低約7万円の税金が発生します。
確定申告が大変
法人の確定申告は個人に比べて格段に複雑になります。法人の90%以上は会計事務所に委託しているという統計データがあり、自力で確定申告を作成していた個人事業主も法人成りすると税理士に委託せざるを得ないケースが通常で、追加コストが発生する可能性があります。
給与計算・社会保険事務が必要
個人事業主では必要なかった事務作業として、法人から社長へ支払う給料(=役員報酬)の計算、および付随する社会保険事務が必要になります。