欠損金がある企業のM&A【留意点】
繰越欠損金を多額に抱える企業の買収する場合、買収後に生じた利益と繰越欠損金を相殺することで節税効果が得られると考えているが正しいか、とのお問い合わせをよく頂きます。繰越欠損金の税制概要は次段落以降に記載していますが、M&Aにおいては、法人税法57条の2(<例外②>として後述)に該当しないか、特に留意が必要でしょう。
M&Aの買い手は、買収先企業が法57条の2に該当してしまうと、それまで生じた繰越欠損金が一切控除できなくなってしまうため、事前に慎重な検討が必要になります。
また、M&Aの売り手にとっても、売却前に事業を廃止してしまった場合、法57条の2で挙げられる事項に該当し、買い手側に繰越欠損金を利用する余地がなくなってしまいます。当然、抱えていた繰越欠損金に価値はつかなくなってしまいます。
繰越欠損金の原則(法人税法57条)
繰越欠損金制度の原則的な取り扱いは、青色申告書を提出している等一定の要件を満たした場合、法人に生じた欠損金額を10年間繰り越すことができるというものです。(平成30年4月1日以後に開始する事業年度において欠損金が生じた場合)
繰り越された欠損金は、その後の事業年度において所得金額を上限として損金の額に算入され、法人税額を減額する効果を有します。
例えば、繰越欠損金の額が200万円で、その事業年度の繰越欠損金控除前の所得金額が150万円の場合には、繰越欠損金のうち150万円が損金の額に算入され、その事業年度の所得金額は0となります。
例外①-中小法人等以外の場合―
中小法人等以外の法人において繰越控除できる欠損金の額は、その事業年度の所得の50%までという制限が加えられています(平成30年4月1日以降開始する事業年度の場合)。これが、原則に対する1つ目の例外です。
なお、中小法人等以外の法人の場合とは、資本金が1億円を超える普通法人や資本金が5億円を超える法人と完全支配関係にある法人等をいいます。
例外②―租税回避行為―
2つ目の例外は、M&A及び繰越欠損金を利用した明らかな租税回避行為を防止するために制定されています。(法人税法57条の2)
具体的には、欠損金等を有し、特定の株主に50%を超える株式等を保有されることになった会社(欠損等法人といいます)が、買収後5年以内に「一定の事項」に該当した場合、繰越欠損金の控除が受けられなくなります。
「一定の事項」をかいつまんで列挙すると、下記1.~5.になります。
- 買収前は事業を営んでいなかったが、買収後に事業を開始した
- 買収前に営んでいた事業(旧事業)を買収後に全て廃止し、買収後に旧事業の規模の5倍を超える事業資金等を受け入れた
- 株式に加え債権等も取得されている場合で、買収前の事業規模の5倍を超える事業資金等を受け入れた
- 1.~3.の前段に該当した場合で、買収後に適格合併を行った
- 買収前の役員が全て退任し、かつ、従業員の20%以上が退職した場合において、事業規模が買収前の5倍を超えた