M&Aにおける株価算定②

株価算定上の注意点

M&Aにおける株価はDCF法及びマルチプル法により算定されることが実務的に最も多いことをご紹介しました。ただし、これらの手法は、いくつか課題もあり、ほんの一例ですが下記にてご紹介します
<DCF法の課題>
・将来キャッシュフローの予測元となる事業計画の実現可能性を評価する必要がある
・割引率や永久成長率など人によって評価の分かれる指標が計算に組み込まれている 等

<マルチプル法の課題>
・買収先企業の類似企業選定が恣意的になりやすい、或いは、そもそも類似企業が存在しない場合がある
・流動性ディスカウントなど人によって評価の分かれる指標を用いる必要がある場合がある 等

なお、相続税法上規定される株価評価手法は、前述の課題を極力排除した評価方式となっていますが、公平性、客観性及び事前予測性を重視した税法特有のものになっており、株式の経済価値を忠実に反映した評価方法とは言い難く、第三者間で行われるM&Aの現場では用いるべきものではないでしょう。
また、上場企業ないしはベンチャー企業で多く活用されるストックオプションは、原資産が株式であるものの、コールオプションと呼ばれる金融派生商品に区分され、上記で説明した方法とは全く別の評価手法がとられることが通常です。

株価算定の必要性(売り手/買い手の双方に該当)

前述のように、様々な課題があり、かつ、算定手法も難解なDCF法及びマルチプル法ですが、M&Aを検討する最初の段階で、対象となる企業をこれらの手法で簡便的にでも株価算定を行っておくことを推奨します。これはM&Aに買い手側・売り手側双方に共通して言えます。
なぜなら、最初の検討段階で株価算定を行うことで、これから買おうとする企業/売ろうとする企業が一般に認知された手法においてどのくらいの評価額となるのかを把握することができ、自分が希望する価格との乖離幅を知ることができるからです。この乖離幅があまりに大きければ、希望価格を調整することで、買い手を見つけるまでの時間や価格交渉の時間を浪費することを防ぎ、また、異常に割高/割安な価格でのM&Aを避けられることにつながります。この点は、別稿で詳述します。